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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和53年(ラ)10号 決定 1978年7月11日

抗告人(申請人)

北陸観光土地開発株式会社

右代表者

野田昌男

丸富商事株式会社

右代表者

美濃美雄

大上呂産業有限会社

右代表者

沢田清兵衛

株式会社金津自動車学院

右代表者

木戸信夫

株式会社大野自動車専門教習所

右代表者

塗茂光夫

右申請人五名代理人

平正博

外一名

相手方(被申訴人)

学校法人あおい学園

右代表者

山本一馬

右代理人

谷内文雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一1  本件抗告の趣旨は「1原決定を取消す。2相手方は、福井県鯖江市御幸町一丁目三〇一番四地上に自動車教習所を設置してはならない」旨の裁判を求めるというにあり、その抗告の理由の要旨はつぎのとおりである。

すなわち、原決定は、抗告人らが主張したところの、抗告人らと相手方間で、自動車教習所を新設する場合には、抗告人らとの協議、合意を要する旨の契約を締結して事実を一応認めるに足りる疎明がなく、被保全権利の存在が認められないとして抗告人の仮処分申請を却下した。

しかし、右は事実認定を誤つたものであつて、相手方は、昭和四四年四月頃抗告人株式会社金津自動車学院(以下単に抗告人学院という)が、福井県坂井郡金津町に自動車教習所を新設しようとした際これに反対し、相手方に同調した抗告人ら(抗告人学院を除く)及び申請外福井県学園等と協議した結果、施設過剰による不公正な教習生の奪い合い等を避けるため、今後福井県内においては事前に当事者間で協議し、その同意を得たうえでなければ新たに自動車教習所を設置し、また、教習用車両を増車することをしない旨の協定が右当事者間(抗告人学院を除く)に成立し、昭和四五年には抗告人学院もこれに加わつた。

したがつて、相手方及び抗告人らは右協定により、相互に、前記協議、同意を経ないで、福井県内で自動車教習所を新たに設置せず、また、教習車両を増車しない義務を負担したものというべきところ、相手方は、右協定に反し、協議、同意の手続を経ないで、昭和五二年一〇月から抗告の趣旨2項記載の場所に自動車教習所を新たに設置しようとしているので、抗告人らは前記協定に基づく差止請求権を有する。のみならず、相手方の設置しようとしている自動車教習所は抗告人らの自動東教習所よりわずか五ないし七粁内に位置し、抗告人らの自動車教習所の運営を阻害し、施設所有権を侵害する。よつて抗告人らは右侵害行為の差止請求権を有するものというべく、これらの差止請求権に基づき本件仮処分を求めるというにある。

2 しかしながら、自動車教習所業も一の事業であることは明らかであり、所論の協定は事業者が他の事業者と共同してその設置を制限し、相互にその事業活動を拘束することにより、当該分野における競争を実質的に制限しようとするものと認められるので、これが公共の利益に反しないものと認められないかぎり、右協定は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二二年法律第五四号)三条、二条六項に違反するものといわなければならない。

抗告人らは、過剰設備から生ずる過当競争の防止を理由として右制限が違法でないと主張するものの如くであるが、同法二条六項にいわゆる「公共の利益」とは、同法一条に照らして、自由競争を基盤とする経済秩序そのものを指すものと解すべきであり、自由競争の行われるところ優勝劣敗の数のわかれることは自然の勢であつて、個々の企業が成り立つか否かは専ら市場の法則に従うべきものであるから、中小企業団体の組織に関する法律等法令の規定に基づく場合を除き、単に過当競争のおそれがあるというだけで、その結果回避のため企業間の競争を実質的に制限することは法の許さないところといわなければならない。

したがつて、抗告人ら主張の協定がかりに存在したとしても、右は公序良俗に反するものとしてその効力が認められず、抗告人らがこれに基づいて相手方に対し、不作為義務の履行を求めることはできないものというべきである。

のみならず、抗告人らの主張するような自動車教習所の運営阻害、施設所有権の侵害を理由とする差止請求権なるものは認められない。

そうすると、本件仮処分申請は、被保全権利の疎明がないこととなるし、本件が抗告人らに疎明に代わる保証を立てさせて仮処分を許すことが相当な場合に当るものとも認められないので、結局、本件申請は却下を免がれないものである。

二以上の次第で、抗告人らの申請を却下した原決定は、結論において相当であり、本件抗告はその理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用につき民事訴訟法八九条九三条一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(黒木美朝 富川秀秋 清水信之)

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